日本は、皆保険の国。
我々は、健康保険を使って、医療費の3割を負担することで、治療を受けることができます。 (個人的には、とっても良い制度であると、思っています。)
これは、どんな方でも当然のことと認識していて、医者へ行く際には健康保険書を持参していくわけですが・・・ 交通事故で、治療を受けて「交通事故では健康保険が使えない」ということを言われ、高い医療費にビックリした、といったことを聞きます。
健康保険の使用は
法的には・・・?
ズバリ! 法律では、交通事故による治療に健康保険を使用することが認められています。
「健康保険及び国民健康保険の自動車損害賠償責任保険等に対する求償事務の取扱いについて」という、旧厚生省の通達(昭和43.10.12保険発第106号)により、このことは明確に示されています。
この通達では、
「最近、自動車による保険事故については、保険給付(健康保険にによる医療給付等)が行われないとの誤解が被保険者等の一部にあるようであるが、いうまでもなく、自動車による保険事故も一般の保険事故と何ら変わりがなく、保険給付の対象となるものであるので、この点について誤解のないように住民、医療機関等に周知を図るとともに、保険者が被保険者に対して十分理解させるよう指導されたい。」
との内容が、全国市町村に発せられました。
45年前の通達ではありますが、その後にこれを修正するようなものがありませんので、現在においてもこの通達の通り、「交通事故による治療に健康保険を使用することが認められている」との理解で問題ないでしょう。
治療費が高額になってしまっては、任意保険に入っていない加害者や、無保険の加害者など賠償能力がない加害者から、被害者は賠償が受けられません。 こういったことを避け、十分な治療が受けられるようにするには、健康保険を利用した治療により、治療費を抑え、被害者救済を図ることが必要と考えられます。
この被害者救済の考え方は、憲法での生存権の保障に合致すると思われます。
裁判例では
大阪地裁昭和60年6月28日判決においては、
「国保法に基づく療養保険給付は、絶対的必要給付であって、同法が、国民健康保険事業の健全な運営を確保するとともに、偶発的、不可測的事故にあった国民が医療費等の調達のため経済生活の均衡が破れ、経済生活の向上と発展を阻害されることがないようにする為、共同貯蓄制度としての国民健康保険制度をその目的としていることに鑑みれば、交通事故により負傷・疾病した被保険者に対し、療養保険給付が行なわれなければならないことは当然であって、これを排斥すべき理由はない」
と判示して、交通事故による治療に国民健康保険から給付を受けることを認めています。 「交通事故は健康保険が使えない」は、都市伝説どころか、誤った認識です。
なぜ「交通事故は健康保険が使えない」と言われるのでしょうか・・・?
交通事故の被害者となる、つまり第三者によってケガをさせられた場合、加害者が治療費を賠償することになります。
自動車賠償責任保険(自賠責)への加入は義務付けられており、ほとんどの人がこれに加えて自動車保険(任意保険)にも契約しているので、交通事故の治療費は損害保険会社を通じて被害者に支払われ、健康保険を使わなくても被害者に実質的な負担が発生しないことも多くあります。
「保険会社が払うのだから、医療費の高い、自由診療で請求してもいいだろう」といった、判断がされるのでしょうか・・・
しかし、交通事故の損害賠償は、それぞれの過失割合に応じて補償されるので、被害者にも20%の過失があるようなときは、医療費が100万円かかったとすれば、相手方の損保会社から80万円の支払いがあり、残りの20万円は被害者自身の負担になります。
同じ100万円かかっても、健康保険を利用して、3割の30万円を支払った場合、80%の24万円が相手方の損保会社から支払われ、被害者自身の負担は6万円ですみます。
交通事故の治療では、健康保険を活用して被害者自身の負担を抑えることも考えるべき場合もあるでしょう。